「いま流行りの”VAN LIFE”とは何か。昔と今の車中泊のあり方について思うこと」

VAN LIFE(バンライフ)という単語をご存知だろうか。

LIFEは、生活とか人生などといった意味の英語。

VAN(バン)は、車のことだ。

個人的な所感だが、バンと聞くとキャラバンとかハイエースみたいなデカくて荷物をたくさん載せられるクルマ。ミニバンはアルファードとかヴォクシーといった、いわゆるファミリーカーのようなイメージであった。

しかし、VAN LIFEにおけるVANとは、クルマ全体のことを指す。

つまり、VAN LIFEとは、端的に訳せば「車で生活する」という意味になる。もともとは欧米の文化であったVAN LIFEが、日本においてもSNSでじわじわと人気を得はじめ、やがて車中泊ブームが到来。「VAN LIFE」というキーワードが浸透していった。

 

それでは、車中泊とVAN LIFEの違いとは何か。

最初は、VAN LIFE=家を持たずに車だけで生活している人

というイメージであったが、今では世の中に「週末VAN LIFE」という単語もあることから、家を持っているかどうかは特に関係なく、明確な違いはないそうだ。

強いて言うならば、車中泊はあくまでも旅先での宿泊手段。一方、クルマで移動をしながら寝泊まりし、時には仕事をしたり、時には料理や洗濯などの家事をしたり。VAN LIFEは、クルマ旅に普段の生活を合わせるイメージかなと個人的には考えている。

しかし、先ほども述べたように明確な定義や区別というのは存在していないみたいなので、自分が「これはVAN LIFEだ!」と思ったら、それはもうVAN LIFEなのだ。

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3年ほど前。とある仕事で早朝、栃木県内の道の駅を訪れた。

道の駅はまだ開店前であったが、駐車場には入ることができた。仕事の準備をするべく車から出る。すでに数台の車が停まっていた。

「こんなに朝早くから、何してるんだろう」と疑問に思ったわたしの目の前に駐車していた、白の日産キャラバン。その中から、ハーフパンツに白のランニング姿、使い古されたサンダルを履いたおじさんが出てきた。ドアが開いた瞬間に見えた車内には、小さな洗濯バサミに吊るされてタオルやパンツが干してあった。思わず見えてしまった生活感満載の空間に、わたしはギョッとしてしまった。

その時、スタッフが「大変だねぇ」と口にした。慌てておじさんとおじさんの車から視線を引き剥がし、聞こえていなかったフリをして聞き返す。

「なんすか?」

「いや、ああいう人さ、車に住んでるんでしょ。行くアテがないから」

行くアテがないから車に住んでる?車って住むものなのか・・・?

車を移動手段としてしか考えたことのなかったわたしは、正直にそう思った。家に帰れない(帰らない)人は、だいたいビジネスホテルとか漫画喫茶とかで寝泊まりしてるんじゃないのか。考えていると、スタッフが続ける。

「奥さんに追い出されちゃったんでしょ。家に入れてもらえないんじゃない?離婚しちゃったのか、知らないけどさぁ。それでこういう場所にクルマ停めて寝泊まりしてるんだよ。大変だねぇ。」

その声は同情しているようで、面白がっているようでもあった。

わたしは、それは確かに、大変そうだと思った。車で寝泊まりするなんて、と。漫画喫茶にいくお金もないのか、と。わたしは、知らないおじさんの人生に想いを馳せた。可哀想だな、ひもじい生活を送っているのかな、と。

白のランニング姿のおじさんは、そんなわたしの同情とは裏腹に、朝日に照らされながら気持ち良さそうにグッと伸びをすると、車の周りをちょろちょろと歩き回りつつ慣れた様子で歯磨きを始めたので、いよいよなんだか見ていることが申し訳なくなり、わたしはそそくさと仕事の準備へと取りかかった。

 

 

3年後。わたしはハイエースを購入し、各地を転々としながら、あの時のおじさんと同じように道の駅やキャンプ場、車中泊OKの駐車場などでクルマを停めて寝泊まりし、車内にタオルや靴下を干している。

周りから見たら、わたしは大変そうに見えるのだろうか。可哀想に見えているのだろうか。はたまた、若い金髪の姉ちゃんが何をしてんだ、と怪訝に思われているかもしれない。

3年前に出会ったおじさん。あのおじさんは、もしかしたら本当に、のっぴきならない理由でクルマに住んでいたのかもしれない。でも、今、改めて考えてみると、あのおじさんはVAN LIFEをしていたんじゃないだろうか?奥さんに家を追い出されたのでも、離婚して家がなくなったのでもなく、おじさん自らクルマでの暮らし方を選択し、旅をしながら自由気ままに生きていたんじゃないだろうか?VAN LIFEという生き方を知った今、そう思う。

 

数年前、車中泊というと、家が持てない人が仕方なくクルマで寝泊まりしていたり、お金がない人が旅行する上での宿泊手段、というイメージが強かったように思う。それこそホームレスであったり、浮浪者という目で見られたり。

しかし、主に欧米を中心にSNS上で発信されるVAN LIFEの居心地の良さそうな空間、おしゃれな写真の数々、自由なライフスタイル。それらが日本の若い世代に浸透していき、やがて老若男女、幅広い層からも人気が高まり、昨今では車中泊ブームと呼ばれる盛り上がりも見せつつある。

 

このように、日本における車中泊は、「ホームレス」や「貧乏旅」といったネガティブなイメージから、「便利で気軽な宿泊手段」として、そして「VAN LIFE」に至ってはひとつの旅の定義となり、自由な暮らし方、文化として認知度を高めている。

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それではこの車中泊、VAN LIFEの魅力とは何か。

VAN LIFEは、とにかく身軽だ。

クルマに生活必需品を積み、自分が乗り込めば、あとはもう、どこにでも行ける。

VAN LIFEは、持つものが少ない。

持てるものが少ない、とも言える。クルマとはいえ、積み込める荷物の量が限られる。何が必要で何が不必要か。車内という限られたスペースをいかに有効活用できるか。そういったことを試行錯誤していくうちに、生きていくために必要なモノは、意外と少ないことに気付く。

VAN LIFEは、どこで寝てもいい。

波の音を聞きながら眠りたいな。海沿いでクルマを停められる場所を探すか。明日の朝は、日の出が見たいな。山の上から朝日が見える駐車場はあるかな?、今日はあんまり運転したくないしここで車中泊しちゃおう。など、自分の気分、体調、タイミングなどでその日に寝泊まりする場所を探す。実はこれは、車中泊の日数を重ねれば重ねるほどけっこう大変な作業ではあるが、最高な車中泊スポットが見つかった時はかなり嬉しい。

VAN LIFEは、毎日違う景色と住める。

海でも山でも川でも森でも、クルマを停められる場所があればいい。窓から見える景色は毎日違う。朝起きたときも、夜の晩酌タイムも。お気に入りの景色を眺めながらの時間は格別だ。

VAN LIFEは、楽しいことばかりじゃない。大変なことも、もう帰りたいと思う瞬間も、いくらでもある。そういったことはまた別の記事でまとめたいと思うが、それでもわたしは常に、クルマで旅がしたいなと思う。わたしは住む家も持っているが、家にいると、すぐにハイエースに飛び乗りたくてたまらなくなる。

VAN LIFEは、ハマる人がハマってしまうと、もはや文化とか趣味とかをすっ飛ばして、「人生そのもの」になってしまう危険な魅力があるといえる。まさにわたしが、そうだ。

VAN LIFEに人生を取り込まれた者として、この魅力を少しずつ共有していけたらと思う。

そしてどうかみなさん、(迷惑行為をしていたら別だが)クルマで寝泊まりしていそうな人を見かけたとしても、怪しい奴などと決めつけないでほしい。

その人は、クルマでの自由気ままな旅、「VAN LIFE」を謳歌している最中なのかもしれないのだから。

 

MIHO氏

 

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